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旧高崎家住宅(伊馬春部生家)

旧高崎家住宅(伊馬春部生家)は、江戸時代から続く商家であり、福岡県北九州市に位置しています。かつて長崎街道の宿場として栄えた木屋瀬宿にあり、江戸時代末期の宿場建築として非常に貴重な建物です。このため、北九州市の有形文化財に指定されています。

建物の歴史と修復

旧高崎家住宅は、5代目の家長として生まれた伊馬春部(本名:高崎英雄)の生家であり、江戸時代末期の商家建築を代表するものです。屋敷地は、木屋瀬宿の西構口跡近くに位置し、天保6年(1835年)に建築されたと考えられています。建物は平成9年3月に17ヶ月にわたる修復工事が行われ、江戸時代末期の宿場建築として復元されました。また、平成9年4月からは伊馬春部に関する資料も合わせて展示されています。

伊馬春部の功績と記念碑

伊馬春部は、放送作家や劇作家として活躍し、ラジオやテレビ、舞台の脚本を手掛けた人物です。彼の代表作には、ラジオドラマ『向う三軒両隣り』や『屏風の女』があります。さらに、伊馬は多くの地元校歌の作詞も手がけています。彼の業績を記念して、生誕100年を迎えた2009年には、彼が詠んだ和歌「ふりかへり ふりかへり見る 坂のうへ 吾子はしきりに 手をふりてをり」の歌碑が建てられました。この和歌は、1976年の宮中歌会始で詠まれたもので、彼の作家としての業績が広く評価されています。

高崎家の由来と発展

高崎家の屋号は「柏屋▢(カネタマ)」といい、本家である「柏屋▢(カネシメ)」から分家として発展しました。本家カネシメは、詩人や歴史学者として有名な頼山陽も立ち寄ったことで知られる豪商の家です。分家であるカネタマは、少なくとも天保7年(1836年)より前には成立していたことが分かっており、分家の家長である高崎四郎八は、文政8年(1825年)から町年寄役を務め、その後大庄屋格に任ぜられました。

カネタマは、嘉永の時代(1848年~1854年)には絞蝋業を経営し、明治6年(1873年)頃には醤油醸造業に乗り出すなど、さまざまな産業で成功を収めていました。この商家としての発展の中で、旧高崎家住宅は地域の商業活動の拠点として機能していました。

建築の特徴と構造

旧高崎家住宅は、木造二階建の建物であり、切妻造桟瓦葺(きりづまづくり さんがわらぶき)の形式を採用しています。建築面積は129平方メートルで、外壁は竪羽目板(たてばめいた)張りで覆われています。建物の構造は、東西に中廊下が通り、玄関が東端に位置しています。南面には洋間や座敷茶の間などが配置されており、江戸時代の商家建築の典型的なレイアウトを今に伝えています。

建物の大きな特徴の一つは、切妻造の大きな妻面にあります。下屋と庇を二段に付け、明快な外観が作り出されています。このような構造は、江戸時代末期の商家建築においては非常に珍しいものであり、当時の建築技術の粋が詰まっています。

木屋瀬宿と旧高崎家住宅の関係

旧高崎家住宅が位置する木屋瀬宿は、かつての長崎街道の宿場町として栄えていました。木屋瀬宿は、遠賀川の堤防下まで広がる広大な敷地を持ち、地域の物流と交流の中心地として機能していました。旧高崎家住宅もこの木屋瀬宿の一角に位置し、商業活動の拠点として重要な役割を果たしていました。

伊馬春部の生涯と文学活動

伊馬春部(いま はるべ)は、1908年(明治41年)5月30日に生まれ、1984年(昭和59年)3月17日に亡くなった日本の作家・劇作家です。彼は、釈迢空(折口信夫)門下の歌人としても知られ、また放送作家としても数々の作品を残しました。戦前から戦後にかけて、ユーモア小説やラジオドラマなどの分野で活躍し、向う三軒両隣り屏風の女などの名作を世に送り出しました。

彼はまた、文藝同人誌『青い花』の創刊にも参加し、同じく作家であった太宰治との交流を持ち、太宰から短篇『畜犬談』を捧げられたことでも知られています。彼の筆名「伊馬春部」は、師匠である釈迢空によって名付けられたものであり、彼の詩作や脚本作に深い影響を与えました。

観光案内と訪れるべき理由

旧高崎家住宅は、伊馬春部の生家としてだけでなく、江戸時代末期の貴重な宿場建築として、建築ファンや歴史愛好者にとって魅力的な観光スポットです。家屋自体の美しい建築様式に加え、伊馬春部に関する貴重な資料も展示されており、彼の作品や生涯に触れることができます。また、木屋瀬宿周辺は長崎街道の宿場町として栄えた地域であり、街並みの歴史的な雰囲気を楽しむことができるため、文化的な観光地としても価値があります。

訪問者は、江戸時代の商家建築の構造を体感しながら、作家としての伊馬春部の足跡を辿ることができ、歴史と文学が交差する特別な体験を提供しています。

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名称
旧高崎家住宅(伊馬春部生家)

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