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出光美術館(門司)

出光美術館(門司)は、福岡県北九州市門司区の門司港レトロ地区にある美術館です。出光興産の創業地である北九州市の要請を受け、2000年(平成12年)4月に開館しました。開館当初の建物は、元々は大正時代に建てられた出光の倉庫でしたが、改装により美術館として生まれ変わりました。この美術館は、東京の「出光美術館」と共に出光佐三の収集した東洋古美術のコレクションを展示しています。

過去の分館とその変遷

一時期、出光美術館は大阪市と福岡市中央区にも分館を設けていました。福岡分館は出光興産福岡支店の2階にあり、ガソリンスタンドの真上という特殊な立地のため、消防法の制約から国宝や重要文化財の展示ができませんでした。福岡分館は2000年3月26日に閉館し、その後福岡支店の移転に伴い取り壊され、現在はシティホテルとなっています。また、大阪分館は2003年3月23日に閉館しました。

全面改装とリニューアルオープン

2005年に部分改修を行った後、出光美術館(門司)は2015年3月29日に一時閉館し、耐震化や展示スペースの拡張を目的とした全面改装が行われました。その結果、鉄筋3階建ての新しい美術館として、2016年10月28日にリニューアルオープンしました。この間、仮営業として一部の展示品と特別展を北九州市旧大阪商船2階に移設して展示していました。

出光創業史料館の併設

出光美術館(門司)には、出光興産の創業者である出光佐三の生涯を紹介する「出光創業史料館」が隣接しています。この史料館では、出光興産本社にあった当時の執務室が移築され、再現されています。ここでは、出光の歴代の看板や商標、創業時の資料などが展示されており、出光興産の歴史を垣間見ることができます。

出光佐三の美術品収集 - 収集の始まりとその展開

収集のきっかけ

出光佐三の美術品収集は、彼が19歳の時に訪れた古美術品の売り立て会場で出会った、江戸時代の禅僧・仙厓義梵の書画「指月布袋画賛」から始まりました。この作品は、月を指差す布袋を軽妙なタッチで描いたもので、現在も出光美術館の代表的な所蔵品の一つです。以後、彼は約千点もの仙涯作品を収集することになりますが、当時は仙涯が高名な禅僧であることを知らず、ただその作品が好きで集めていたといいます。

第二次大戦以前の収集活動

戦前の出光佐三は、交友のあった洋画家の小杉放菴や陶芸家の板谷波山などの作品を集めていました。また、大分出身の文人画家・田能村竹田の作品や、九州を代表する陶芸である唐津焼などもコレクションに加えられました。これらの作品は、出光佐三が個人的な趣味として収集していたものです。

第二次大戦以後の収集の広がり

戦後、出光佐三の収集範囲はさらに広がり、東洋の古美術だけでなく、フランスのフォーヴィスムの画家ジョルジュ・ルオーや、抽象絵画の巨匠サム・フランシスの作品も収集の対象となりました。出光美術館には、これらの多様なジャンルの美術品が所蔵され、展示されています。

収集の終わり - 最後の収集品

出光佐三の美術品収集は19歳から始まり、彼の没年である1981年まで70年以上にわたって続けられました。彼が最期に入手した作品は、最初に収集した仙厓の『双鶴画賛』でした。この作品には「鶴は千年、亀は万年、我は天年」という賛が書き込まれており、当時95歳だった出光佐三はこの作品を最後まで座右に置いていました。

出光美術館の収蔵品 - 国宝と重要文化財

国宝「伴大納言絵巻」

出光美術館の収蔵品の中でも、特に有名なのが国宝「伴大納言絵巻」です。この絵巻は、平安時代(12世紀後半)に制作されたもので、3巻からなります。貞観8年(866年)に発生した歴史的事件「応天門の変」を題材にした説話絵巻で、上巻の応天門炎上の場面や、中巻の子供の喧嘩の場面、下巻の伴大納言邸の場面などが描かれています。

この絵巻の特徴は、夜空に巻き起こる炎、それを眺めたり、火の子を避けようとする貴族や庶民の姿が描かれている点です。連続する長大な画面を構成する絵巻物の特性を生かして、緻密に描かれた人々の様子は、見る者を圧倒します。制作背景については、後白河法皇の求めにより、宮廷絵師の常盤光長が絵を描き、詞を藤原教長が書いたとされます。

国宝「手鑑『見ぬ世の友』」

もう一つの国宝は、古筆手鑑「見ぬ世の友」です。この手鑑は、奈良時代から鎌倉時代にかけての和様の筆跡を集めたもので、229葉の古筆切が収められています。名称は『徒然草』の「ひとり灯のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなうなぐさむわざなる」という一節から取られています。

重要文化財「江戸名所風俗図」

出光美術館には、2015年度に重要文化財に指定された「江戸名所風俗図」も所蔵されています。これは紙本金地著色の八曲屏風で、別名「江戸名所図屏風」とも呼ばれます。明暦の大火以前の江戸を描いた珍しい屏風絵で、江戸の庶民生活が生き生きと描かれています。特に、不忍池に描かれたペリカンは、日本で描かれた最古の作例だと考えられています。

この屏風絵の注文主については、越前松平家に関係する人物や、向井正俊の願望を反映したものとする説などがあります。いずれにしても、江戸時代の風俗や生活を知る上で貴重な資料となっています。

出光美術館(門司)の見どころ

多彩な展示と特別展

出光美術館(門司)は、収蔵品の展示に加え、様々な特別展を開催しています。これまでに「禅僧の美術展」や「浮世絵の世界展」、「中国陶磁の美展」などが開催され、多くの来館者を魅了してきました。また、美術館の所蔵品は定期的に入れ替えが行われるため、何度訪れても新しい発見があるのも魅力の一つです。

充実した施設 - カフェやミュージアムショップ

出光美術館(門司)には、訪れた人がゆっくりと過ごせる施設が整っています。美術館内には、展望カフェ「アートカフェ 友雅」があり、門司港レトロの景色を一望しながらくつろげます。また、ミュージアムショップでは、美術館オリジナルのグッズや書籍などが購入できます。展覧会の図録や美術品に関する書籍、出光美術館のコレクションをモチーフにしたお土産なども充実しています。

アクセスと周辺観光スポット

出光美術館(門司)は、JR門司港駅から徒歩5分という便利な立地にあります。門司港レトロ地区は、観光地としても人気があり、美術館見学と合わせて楽しむことができます。レトロな建物やおしゃれなカフェ、ショップが立ち並び、港を一望できる展望台もあるため、観光の際にはぜひ立ち寄りたいスポットです。

Information

名称
出光美術館(門司)

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