門司区は、九州地方の北端に位置し、北九州市を構成する7区のうちの一つです。この地域は、1963年(昭和38年)2月10日に北九州市が発足するまで旧門司市として存在していました。門司区は、企救半島の大部分を占め、西側は関門海峡を挟んで山口県下関市と向かい合い、東側は周防灘に面し、南側は小倉北区および小倉南区に接しています。地理的な条件から、本州から九州への玄関口としての役割を果たし、また、日本海と瀬戸内海を結ぶ重要な海路を押さえる交通の要所として、古くから栄えてきました。
門司区の発展は、1889年(明治22年)以降に行われた築港と鉄道敷設によって始まりました。これにより、それまで寒村であった門司は、急速に成長を遂げました。門司港は、筑豊地域からの石炭を積み出す輸出港として機能し、商社や金融機関が次々と支店を構え、大里地区には製糖や製粉などの工場が建設されました。1899年(明治32年)にはいち早く市制が施行され、日本有数の貿易港として成長しました。
昭和期には門司港から国際航路が開け、大連航路なども運行されました。しかし、太平洋戦争末期には度重なる空襲と関門海峡への機雷投下により、海峡が封鎖されるなど、大きな打撃を受けました。戦後は主要な貿易先であった中国との国交が断たれたこともあり、門司港の地位は低下し、経済的にも衰退しました。1963年(昭和38年)、門司市は小倉市、若松市、八幡市、戸畑市と対等合併し、北九州市の門司区となりました。
1980年代後半、当時の北九州市長であった末吉興一は、門司港に残る歴史的建造物を生かして街を再生させる「門司港レトロ」構想を打ち出しました。1988年(昭和63年)には、門司港駅が国の重要文化財に指定され、洋風建築の保存や活用が本格化しました。総事業費約300億円が投じられ、1995年(平成7年)に門司港レトロはグランドオープンを迎えました。
門司港レトロ地区は、門司港駅を中心として歴史的建造物や観光施設が集まっています。門司港駅(1914年築)や旧門司三井倶楽部(1921年築)、旧大阪商船ビル(1917年築)、旧門司税関(1912年築)など、明治から大正期にかけて建てられた洋風建築が立ち並び、観光客に人気です。これらの建物は、過去の門司の繁栄を今に伝える貴重な文化財です。
旧九州鉄道本社を転用した九州鉄道記念館は、鉄道に関する展示や資料を多数収蔵しており、鉄道ファンのみならず幅広い世代の観光客に親しまれています。また、館内には、門司港を発着していたかつての列車の模型や、蒸気機関車の実物が展示されており、鉄道の歴史を学ぶことができます。
門司港レトロ展望室は、高層ビルの31階に位置し、門司港レトロ地区や関門海峡の絶景を一望できるスポットです。晴れた日には、下関市や関門橋まで見渡すことができ、夜景も非常に美しいため、観光客に人気のスポットとなっています。
海峡ドラマシップは、関門海峡の歴史や文化を紹介するミュージアムで、迫力ある映像展示やジオラマ、体験型の展示が楽しめます。特に、関門海峡を舞台にしたドラマ仕立ての展示は、子どもから大人まで楽しめる内容となっており、観光客に人気の施設です。
門司港地区の北に位置する和布刈地区は、レトロ事業と同時期に海峡めぐり推進事業によって整備されました。この地域には、和布刈公園があり、関門海峡を一望できる景観が楽しめます。公園内には、桜の名所として知られる「和布刈の丘」や、歴史的な神社である和布刈神社もあり、観光スポットとして人気があります。
門司駅を中心とする大里地区は、かつてはサッポロビール九州工場がありましたが、工場が閉鎖され経済的に衰退していました。近年では、その跡地を利用して「門司赤煉瓦プレイス」として再開発され、観光客の誘致に取り組んでいます。また、マンションの建設も進んでおり、住環境の整備も行われています。
周防灘に面する新門司地区には、港湾設備や臨海工業用地が整備されており、西日本有数のコンテナターミナルが存在します。この地区は、観光地というよりも物流の拠点として機能しており、港湾施設の見学や工場見学なども行われています。
門司港レトロの観光開発により、門司区は一時的な経済的な活性化を遂げましたが、観光以外の地域では依然として課題が残されています。特に、大里地区の経済衰退や、人口減少・高齢化が進むことが懸念されています。旧門司市の人口は、1959年に16万人を超えるピークに達しましたが、その後減少を続け、2015年以降は10万人を割り込んでいます。現在、門司区の人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は36.5%に達しており、北九州市の中でも特に高い水準です。
今後、門司区がさらに発展していくためには、観光だけでなく、地域経済全体を活性化させる取り組みが求められます。例えば、歴史的建造物の保存と活用に加え、地域の特産品や文化を活かした新しい観光資源の開発、企業誘致や産業振興などが考えられます。また、高齢化に対応するための福祉サービスの充実や、子育て世代が暮らしやすい環境づくりも重要です。これらの取り組みを通じて、門司区がさらに魅力的な地域として発展していくことが期待されています。