天拝山は、福岡県筑紫野市に位置する標高257.4mの山で、地域の歴史や自然に触れることができる名所です。この山の名前は、平安時代前期に昌泰の変で大宰府に左遷された菅原道真が、自らの無実を訴えるために何度も登頂し、天を拝したという伝承に由来しています。古名は天判山(てんぱんざん)であり、かつてはススキだけが生い茂る山でしたが、黒田長政の家臣である小河内蔵充が郡司となった際に植樹を行い、現在では全山が樹木に覆われる緑豊かな山となっています。
天拝山は、二日市温泉など筑紫野市の中心部から徒歩で約10~15分程度の距離にあり、アクセスが非常に便利です。登山道の入口には、菅原道真にゆかりのある「御自作天満宮」や「紫藤の瀧」のほか、天台宗の古刹である武蔵寺や天拝山歴史公園があり、訪れる人々に歴史と自然の融合を感じさせてくれます。また、中腹には「荒穂神社」、山頂には「天拝神社」があり、山全体が信仰の対象としても知られています。
天拝山の主な登山道である「開運の道」は、未舗装ながらも幅員が3~4mと広く、8合目付近まで特別な登山装備を必要としない整備された経路が用意されています。このため、地元の小学校や高校の生徒たちの登山にも利用されており、老若男女を問わず手軽に楽しむことができる山として親しまれています。しかし、8合目を過ぎると、354段の急な雁木が現れ、斜度が急激に増すため、登頂間近の9合目付近では、「登山の楽な低い山」という印象が一変し、挑戦的な登山となります。
天拝山には「行者の滝」経由(天神さまの径)や「飯盛城跡」経由など、他にも複数の登山経路が存在します。かつては「石楠花谷」を経由する経路もありましたが、2009年の中国・九州北部豪雨による土砂崩れの影響で通行が不可能となり、現在も治山工事が完了していないため、途中まで進むことはできますが、引き返す必要があります。石楠花が咲く時期には白い美しい花が見頃を迎え、多くの登山者が訪れました。
開運の道と天神さまの径には、1合ごとに菅原道真公が詠んだ歌碑が設置されており、道真公の心境を追体験しながら登山を楽しむことができます。山頂には展望台があり、筑紫野市をはじめとする近郊の市街地を一望することができます。また、天候が良ければ、福岡市にある福岡ドームや福岡タワーを肉眼で確認することも可能です。
天拝山は、松本清張の小説『夜光の階段』で殺人現場として登場するなど、文学の世界でもその名前が知られています。また、1889年(明治22年)2月11日には、明治天皇と昭憲皇太后の前で奇術を披露した帰天斉正一(きてんさいしょういち)が、菅原道真が天に無実を訴える場面を天拝山で演じることが、奇術以外の十八番であったと伝えられています。
天拝山は、その歴史的背景や自然の美しさにより、多くの人々に愛され続けています。アクセスの良さや、多様な登山道により、初めての登山者からベテランまで幅広い層が楽しめる山として親しまれています。菅原道真の伝承や豊かな自然、そして展望台からの素晴らしい眺望が、訪れる人々に特別な体験を提供してくれることでしょう。