旧伊藤伝右衛門邸は、福岡県飯塚市幸袋に位置する歴史的な建造物です。炭鉱王として名を馳せた伊藤伝右衛門が大正時代中期から昭和初期にかけて本邸として造営したもので、その庭園と建物は現在、一般公開されています。
伊藤伝右衛門は、明治・大正・昭和にかけて日本最大のエネルギー供給地であった筑豊地方の炭鉱経営者として活躍し、「筑豊御三家」と並ぶ石炭王と呼ばれていました。彼は50歳のとき、伯爵柳原前光の娘である燁子(あきこ、通称:白蓮)と結婚し、彼女のために日本建築の粋を集めた豪華な邸宅に改築しました。
旧伊藤伝右衛門邸は、4つの棟と3つの土蔵から成る邸宅で、新飯塚駅から遠賀川沿いに長崎街道を北上した場所に位置しています。邸内の各部屋は和洋折衷の意匠が施されており、贅を尽くした豪華さが際立ちます。
2階にある白蓮の居室は、日本庭園を一望できる特等席で、銀箔で作られた押入れや、天袋には日本画家・水上泰生が描いた蝶の装飾が施されています。これは、伝右衛門が白蓮の歓心を得ようとこだわった意匠であり、豪華絢爛な雰囲気を漂わせています。
庭園は「旧伊藤傳右エ門氏庭園」として国の名勝に指定されています。この庭園は、邸宅南側の馬車廻しを中心とする広場、中庭、そして北側に広がる主庭の3つのエリアで構成されています。特に主庭は主屋からの展望も考慮した回遊式庭園となっており、訪れる人々に季節ごとの風情を楽しませてくれます。
庭園内には、大規模な築山や独特な意匠を凝らした石造噴水、池泉などが配置され、芸術的な価値も高いと評価されています。白蓮が嫁入り道具として持参した石灯籠も庭園内に残っており、当時の趣きを感じることができます。
旧伊藤伝右衛門邸は「旧伊藤家住宅」の名称で2020年に国の重要文化財に指定されました。指定された建物は以下の7棟です。
邸内の建築図面や附属するポンプ小屋なども保存され、当時の様子を忠実に再現する工夫が施されています。
邸宅には、伝右衛門と白蓮が約10年間にわたり共に過ごした歴史が刻まれています。波乱に満ちた二人の恋物語も、この邸宅の見どころの一つです。白蓮は後に絶縁状を公表し、邸宅に戻ることはありませんでしたが、彼女の居室などは当時のまま保存されています。
旧伊藤伝右衛門邸は、飯塚市観光協会が主催する各種イベントの会場としても使用されています。毎年3月には「いいづか雛のまつり」が開催され、他にも企画展や催事が催され、多くの観光客を魅了しています。
また、旧伊藤伝右衛門邸は将棋の女流王位戦の対局場としても知られ、2014年5月21日には第25期女流王位戦の対局が行われました。
敷地内にはお土産売り場「ミュージアムショップ白蓮」も設置され、訪れる観光客に人気です。2017年には飯塚観光協会が運営する新装開店を迎え、さまざまな商品が取り揃えられています。
旧伊藤伝右衛門邸へは、以下の方法でアクセスすることができます。
旧伊藤伝右衛門邸は、歴史的価値と美しい景観、そして日本の近代化を支えた炭鉱経営者の栄光と悲恋を感じることができる場所です。福岡を訪れる際には、ぜひこの名所を巡り、伊藤伝右衛門と白蓮の物語に触れてみてください。