朝日寺は、福岡県久留米市大善寺町夜明に所在する臨済宗妙心寺派の寺院です。山号は「夜明山」で、本尊として地蔵菩薩が祀られています。朝日寺は、筑後三十三観音霊場の第20番札所としても知られており、観音堂には不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)を本尊として安置し、脇侍として十一面観音と聖観音が並んでいます。
朝日寺は、寛元3年(1245年)に神子栄尊(しんしえいそん)を開山として創建されました。伝承によれば、神子栄尊は平康頼(たいらのやすより)と藤吉種継の娘の子であったとされ、安徳天皇の関係者とも言われています。寛文10年(1670年)には、梅林寺の虎渓宗乙(こけいそうおつ)によって中興され、その際に臨済宗妙心寺派に改宗しました。平成27年(2015年)には新本堂が建立され、現在も多くの参拝者を迎えています。
朝日寺には、歴史的価値のある文化財が数多く存在します。これらの文化財は、久留米市や福岡県によって指定されており、貴重な仏教美術作品として保存されています。
この像は、朝日寺の開山である神子栄尊禅師を表現したもので、檜材(ひのきざい)を使用した寄木造(よせぎづくり)です。栄尊禅師は、建仁元年(1201年)に仏門に入った後、中国に渡り修行を積んでから帰国し、九州各地で寺院を開山しました。像は極めて写実的で、鎌倉時代の肖像彫刻の伝統を色濃く残しており、その表現技術の高さが注目されています。像造銘には「嘉兒二年甲辰三月二七日造」(1304年)と記されており、貴重な歴史資料です。
聖観音立像は、観音堂の本尊である不空羂索観音の脇侍として安置されています。この像は、鎌倉時代末期から南北朝時代にかけて制作されたとされ、その動きのある表現や衣の流れるような線が特徴です。高さ約1.7メートルの大きさで、寄木造りの技法を用いた作品であり、中世の仏教美術を代表するものとして評価されています。
朝日寺の観音堂の中央に鎮座する不空羂索観音立像は、やや面長の顔立ちとどっしりとした体躯が特徴です。鎌倉時代末期から南北朝時代に制作されたと考えられ、形式的ながらも古風な趣がある仏像です。像高は約220センチメートルに及び、迫力のある姿が参拝者の目を引きます。
不空羂索観音の脇侍として右側に安置されている十一面観音立像も、鎌倉時代末期から南北朝時代の作とされ、木造で作られた大像です。この観音像も高さ約2メートルを超える大きさで、優美な姿と力強さを併せ持っています。
朝日寺には、開山者である神子栄尊の生い立ちや修行にまつわる伝説が残されています。栄尊は、幼い頃に母によって捨てられたものの、地元の僧侶によって保護され、後に仏門に入ることを決意しました。彼が開山した朝日寺は、その特別な縁からも地域の信仰の中心として重要な位置を占めるようになりました。
神子栄尊の母親は、信仰深く、不空羂索観音に特別な崇敬を抱いていました。彼が生まれた際、口から異光を放つという不思議な現象が起こり、母親は驚いて彼を寺の近くに捨てたという伝承があります。捨てられた栄尊は、地元の僧侶によって拾われ、その後、仏門に入る運命をたどることとなります。この出来事がきっかけとなり、朝日寺は栄尊の人生にとって重要な寺院となったのです。
また、朝日寺には雷にまつわる伝説も伝えられています。ある時、寺の井戸に雷が落ち、その雷を捕らえて数年間寺に留めていたという話があります。その後、雷は「この寺には二度と雷が落ちない」という証文を残して去っていったとされています。この伝説は、朝日寺の神聖さや霊的な力を象徴するものとして信仰を集めています。
朝日寺の観音堂は、天明3年(1783年)に建立されました。大きな鬼瓦には「癸術三夕P年 八月 吉日 瀬下」と刻まれており、長い歴史を誇る建造物です。この観音堂は、筑後三十三観音霊場の第20番札所として、巡礼者や参拝者にとって重要な信仰の場所となっています。
観音堂の中心には不空羂索観音が祀られ、左に聖観音、右に十一面観音が並んでいます。これらの像は、いずれも鎌倉時代から南北朝時代にかけて制作されたもので、壮大な規模と精巧な彫刻技術が特徴です。それぞれの像が2メートルを超える大きさを持ち、参拝者に深い感銘を与えます。
朝日寺には「般若泉」と呼ばれる井戸も存在しています。この井戸は、延宝年間(1673年~1688年)に藩主の板垣氏が民衆を使って掘り、その後、藩主や巡見使が立ち寄る際に飲料水として使用されました。組石には「天和三癸亥(1683)正月十八日」と記されており、その歴史の深さが窺えます。伝説によれば、この井戸に雷が落ちたことがあり、雷を寺に捕らえていたという不思議な話も残っています。
朝日寺へは、西鉄天神大牟田線の大善寺駅から徒歩約700メートルの距離にあります。近隣の観光名所と併せて訪れることができ、地域の歴史や文化を深く学ぶことができる場所です。寺院内の文化財や歴史的な建造物は、訪れる人々に感動と学びを与えるでしょう。